1. 背景
2023年は半導体製造業界の株価が躍進した。
その中でも非常に興味深い現象が起きている事に気付いた。
それは代表株の1つである東京エレクトロン(以下、TEL)の株価である。
2022年後半から始まった下降トレンドから脱却し、5月ころに上昇トレンドに移行、2024年1月現在では2022年の高値圏を超えている。
さて、株価では上昇トレンド一直線の半導体製造装置業界であるが、日本半導体製造装置協会(以下、SEAJ)より発行の需要予測では、2023年下半期は需要減退との予測が発表されている。
※SEAJ予測資料の最新版が見当たらないため、代わりにITmediaの記事を置いておく。
数値としては、2023年7月発表分の需要予測で前年比成長率を-20%として見込んでいる。実際に2023年8月以降の半導体製造装置の3か月平均販売高は、概ね前年比で-20%水準前後を泳いでいる現状だ。
実際に、TELの決算説明会資料などを確認しても、実績値・予想値ともに売上高は2023年度に比べて低い値を示している。
だが、株価は上がった。
確かに2024年以降の受注予測は回復傾向とみられている。
予想で買われ、事実で売られるというのは株式市場においては鉄板であるが、私のちっぽけな感覚では「いくら何でもそこまで乖離するか……?」という感想を持つ*1
私の感覚は置いておいたとしても、決算内容と株価が連動していないという事実は残る。
理由については申し訳ないが「誰もわかんねんだよそんなの」となってしまう。本書を作成するに当たり、様々な角度で思案したが、結局分からなかった。
断片的には要素を上げる事はできる。
・TSMCの日本工場設立
・レーザーテックの躍進
・ソシオネクストのチップレット需要
・千歳に国産半導体新会社設立
・nVIDIAの日本国内開発拠点の設立発表
半導体製造装置業界全体の好材料はいくらでも見つける事ができるが、どれもイマイチTELの好材料にこじつける理由を思いつくことができない。
TSMCの工場が熊本にできるし、TELも調子がよくなる?
間違いではないが遠いなぁ……
レーザーテックが調子が良ければTELの調子もよくなる?
間違いではいが遠いなぁ……
チップレット需要が高まってくるとTELも調子がよくなる?
需要転換が起きるだけで変わらないんじゃないかなぁ……
いくら半導体製造装置業界のトレンドがよかったとしても、ふんわりとした理由で株式をやるべきではない。儲けるにしても売り時が分からず、損をするにしても反省ができない。
ではどうするか?
答えは「スコープを小さくする」である。
2. 銘柄選定方針
要はTELの株価は、決算以外の外部要因が大きすぎて予想が掴みにくいという事だ。
つまり決算以外の外部要因が小さく、なおかつ今後上昇する可能性のある銘柄を見つけ出せばよい。
「お前はなぜ半導体製造装置業界に特定しているんだ? そんなのどんな業界でも同じだろう」という反論も容易に聴こえてくる。
しかし、半導体生産の不景気というものは逃してはならない株式購入のタイミングである。
なぜなら半導体の製造数は上下の振れ幅があれど、必ず増え続け、下降すれば必ず戻り、それ以上に増えるものだからだ。半導体の使用数はずっと増え続けており、これからも少なくともぼくが生きている間は増え続けるであろう。*2
となると、2024年は需要数増加見込みであるという情報も、ある程度の確度が高い情報としてよさそうだ。つまり、TELの売上高も来年度以降は増加する可能性が高いと扱って良いと考えられる。
TEL以外の銘柄の話はお前はしないのか?という疑問も聞こえては来るが、業界全体の製造数の変動を一番大きく影響を受けるのは、(日本企業中で)売上高が一番大きいTELであろう。TEL以外の銘柄は、TELの検討が終わってからで十分である。
ここで「じゃあTEL買えば来年あがるじゃ~ん。やったね!」となれればよいのだが、残念ながらTELの株価は現在は決算内容と連動していないという事実が発生している。
そこで考えることが「スコープを小さくする」である。
現状確度が高い予想はただ1点、「半導体製造数が増える=TELの売上高が上がる」のみである。つまりここの売上高が上がると、業績がよくなる企業を見つければよいという事である。*3
考え方はシンプルで、TELの製造装置に組み込まれている部品のメーカーを探し出せばよいのだ。販売品目の100%をTELに納品するような会社があれば、そこを1点買いするだろうが、世の中そこまで簡単にいかない。
また上場している規模の会社で、そのような売り方をする製造業はほぼほぼないだろう。*4
つまり、TELの生産数の増加が「会社の業績に及ぼすレベル」で影響を与え、そのほかの販売品目が安定している、といった企業を地道に探していけばよいという事だ。
3. 適合会社名:株式会社 京三製作所(6742)
改めて銘柄を選定する条件を確認しておこう。
もう少し整理し、かみ砕いた言葉を使うと、下記の4点に合致すればよいことになる。
① 半導体製造装置用の部品を製造しているメーカーである
② 半導体製造装置用の部品は会社の主要なセグメントである
③ 半導体製造装置用以外の販売品目は安定している
④ TEL向けの売上の規模感が会社の業績に直結するレベルである
この4点に合致する銘柄を丁寧に探していくことになる。
正直この作業、死ぬほど難しい。<注1>
早めに懺悔しておくが、実はこの会社はこの方法で見つけておらず「昔よく行っていた地域の駅に看板が出ていた」という理由だけで見つけた銘柄だ。
私の話は置いておき、さっそくこの銘柄について解説していこう。
3.1. 京三製作所 概要
実は名前を聞いたことがある人も多いのではないだろうか。
京三製作所は、信号機で有名なメーカーだからだ。
日本信号・京三製作所・大同信号は信号三社と言われ、交通・鉄道信号の有名なメーカーである。
信号以外で成長を求めて、日本信号は交通に関する知識・京三製作所は信号機製作で培った知識で、違った事業を起こしている。*5*6
半導体製造においては、プラズマ作成やイオン注入時に高周波の電源装置が必要になる。
もともと京三製作所は信号システム用の電源装置を販売品目としておいているため、その技術の応用だろう。
この時点で、選定条件①(半導体製造装置向け部品の製造メーカー)を満たしている事になる。
3.2. 主な売上セグメント
決算報告上での売上セグメントは「信号システム事業」「パワーエレクトロニクス事業」の2つとしている。
簡単に言うと、交通信号系の事業はすべて信号システム事業、それ以外はパワーエレクトロニクス事業として考えてよいと思われる。
各セグメントごとの直近の売上高は下記の表の通りである。
全体的に8割~9割が信号システムの売上であり、1割~2割がパワーエレクトロニクス事業による利益だ。
売上高的には、パワーエレクトロニクス事業はまだまだ小さく、会社の中でも恐らくそこまで立場は強くないだろう。ただし、株価の変動への要因という視点で見ると、また違った一面が見えてくる。
例えば各セグメントごとの直近の営業利益は下記の通りである。
直近9年程度の平均変動率は信号系が101%、パワー系が116%だ。
2021年に信号システム事業は-50%をたたき出しているが、おそらくコロナの影響であり、これを省くともっと安定した数字となる。
ほぼ、営業利益の変動はない。
つまりこれは、「半導体向け製品が業績に影響し、その他セグメントが安定している」と言ってよいだろう。
また、平均変動率である(信号:101%, パワー:116%)の数字だけを切り抜いて考えると、株価的にはパワーエレクトロニクス事業の業績が大きく要因となりえるだろう。
なぜなら仮にずっと同じ売上高、利益率であれば株価は配当金などを上げ続けない限り変化しないと思われるからだ。*7
つまり選定条件③(半導体向け販売品目以外は安定)については、間違いなく満たしている。加えて、株価の変動という面では、選定条件②(半導体向け販売品目は主要なセグメントである)と言えるだろう。
3.3 主な顧客、東京エレクトロン宮城
選定条件における①~③は満たすことができた。残りの1つである選定条件④である「TEL向けの売上の規模感が会社の業績に直結するレベルである」を満たす事ができればよい、という事になる。
そもそも "売上の規模感が会社の業績に直結する”ってなんなんだよ。
という全うな意見に、ぼくも調べ始めるまでは押しつぶれそうになったが、京三製作所はその作業を全て解決してくれた。
これは京三製作所の第158期の有価証券報告書の一部である。
有価証券報告書では売上高のうち10%を特定の顧客で占めている場合は、その情報を"主要な顧客"という項目にて明示するルールとなっている。
京三製作所の場合は、その項目に東京エレクトロン宮城株式会社が記載されている。*8
売上高は全体の12%であり、これは文句なく条件④を満たしていると言えよう。
つまり、条件①~④の全てを満たしている事となる。*9
よって京三製作所(6742)は、TELの売上高が増えると株価が上がると予想され、完全に"買い"判定と言えるだろう。
4. 株式売買計画
京三製作所(6742)が「2024年に株価が上がる可能性が高い」という事までは、整理する事ができた。ここからが大事な内容である。記事タイトルにもなっている通り、売買をどのようにするかが肝要である。
特に売却計画が株での利益を生み出す要因の重要なファクターと言えるだろう。
4.1. 株式購入計画
一般的に株式を分析する際の手法は、ジャンルとして"テクニカル"・"ファンダメンタルズ"の2分野に分類される。
本書では、(拙い内容ではあるが)3章までの内容をファンダメンタルズの分析とし、ここからは簡単なテクニカルによる分析を使用し、購入・売却計画を図ろうと思う。
[PER・PBR分析]
2023年1月10日時点では、PER:8.14, PBR:0.64 であり完全に買い判断である。
[チャート分析]
過去10年チャートでは株価を下記のように3分割をして考える事ができる。
チャート分析上では、各価格圏において下記の方針を取る事が望ましいと思われる。
安値圏:問答無用で購入
中値圏:様子見をして購入
高値圏:様子見をして売却
例えば、2024年1月10日時点での株価は467円となるので、様子を見て購入ということになる。
上記2要素による分析により、2024年における京三製作所の購入方針においては、下記の通りとする。
★株式購入方針
~402円以下は即時購入・~626円以下は判断により購入
4.2. 株式売却計画
まず確認しておきたい点は、今回の株価が上がるという予想は、半導体製造装置の需要増大、およびTELの売上高の増加に基づいているという事だ。
つまり順当に考えるならば、売却で最高益をたたき出す方法とは、TELの売上高が一番高くなり、その情報が京三製作所の株価に折り込まれたタイミングで売却する事となる。
「それが分かっちゃ苦労しない」という話でもあるが、決めなければ売却もすることができない。完璧に予想することは不可能ではあるが、ある程度大まかには方針を建てることはできるはずなので、地道にやっていく他しかない。
TELの売上高が一番高いタイミングを、まず掴む必要がある。
需要数と販売数が少しズレ込むとは言え、ここでは簡便に半導体製造装置の需要が一番多い時と仮定しよう。
そんなもん分かるかボケ!!!
危ない危ないキレそうになってしまった。
だが、そんなタイミングが分かれば今頃ぼくは株価で大儲けをしているし、世の中のみんなも全員大富豪になっている。
今回はどうやら「最高益をたたき出す」という目標を建てるべきではなかったみたいである。
今回の売却計画には、"2.銘柄選定方針"にも記載した半導体業界の特徴を使うことにする。要は"下降しても必ず戻り、波はあれど長期的には上昇傾向”という事だ。つまり、戻った時に1つ、上昇した時に1つ拾えればある程度の利益を得る事ができるだろう。*10
今回の売却方針について下記に図示する。
最低3単元を安値圏で所持し、売却を第一次・第二次・第三次と分ける事により、漸次的に利益を得るという方法だ。今回の売却計画はこれを採用とする。
売却方針において、最低3単元を保有する事になったため、購入方針においても、変更があった事を注意されたい。
4.3. 株式売買計画_改
本書における京三製作所(6742)における、購入・売却計画を以下のように記す。
★株式購入計画
最低3単元を保有を前提とし、安値圏~402円,中値圏~626円以下にて、購入する。
★株式売却計画
売却を三段階に分割し、下記のタイミングで売却する。
第一次売却:700円達成時に売却
第二次売却:800円達成時に売却
第三次売却:(上昇トレンド時)売却せず, (下降トレンド時)800円にて売却
以上、京三製作所における株式売買の計画である。
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長い脚注
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<注1>
この作業をイチからすると下記の様な工程になる。一例で、半導体製造装置の1つである、エッジング装置の部品メーカーを探してみよう。
- 「エッチング装置 構造」で検索する
- 出てきたいくつかのサイトを確認し、どのような構成になっているかを確認する。(※今回はこのサイトを参考にした。)
- 上記のサイトにて真空システムという構成要素があることを発見した。
- 「半導体製造装置 真空システム」で検索する
- 検索結果から、"真空チャンバ" という構成要素が存在していることを発見した*11
- 「真空チャンバ シェア」で検索する
- シェアランキングは残念ながら出てこなかったが、真空チャンバの主要メーカー(っぽい)一覧を、このサイトで確認できた
- 上記サイトの一覧の会社について、1つ1つ調べ、上場企業の場合は決算報告書を読み、利益セグメントから半導体向けの売上について確認する。
- 半導体向け売上が大きい企業のうち、「売上に及ぼすレベル」の取引先がTELであるかを確認する。(有価証券報告書の主要な顧客に名前があるかどうかで判断をする)
本当に時間がかかるが、このクソ長いブログを最後まで読んだ忍耐力のある者なら、こなせるのではないだろうか。
そもそも株式で勝とうとするならこのくらいは当然、という考えもあるが。
ただし、半導体の製造工程を知っていて、連想ゲームが得意であれば、もう少し楽にできる。例えば半導体には洗浄工程があり、そこでは純水が必要であると知っていれば「純水用のポンプ・ノズル・センサ」あたりが怪しいな~などといったという視点も可能だ。*12
「株式投資は業界研究が重要である」という事を表している良い例と言えるだろう。
*1:特に今年はひどい。決算がいいのに売られ、決算がよくないのに買われるケースをよく見た。今年から株に本腰を入れようと、日経のラジオを聴いているが、そこでもパーソナリティが言っていたので、感覚はそこまで間違っていないのだろう。
*2:俗に言う「シリコンサイクル」である。だが上述の通り、世の中の半導体使用数が増えすぎたため、既に2018年ごろにはシリコンサイクルは消え、増え続ける最強状態になったと言われていた。しかし、現状は未だにサイクルっぽい動きをする代物になっている。運が悪く567ショックが来たからそうなっているか、そうでないかは、一般市民には判定しづらい。シリコンサイクルを観測しにくいのが現状だと勝手に思っている。
*3:結局TELの様に決算と株価が連動しない可能性はあるが、一般市民が株式をやる上では、結局決算内容を見て判断する方法が一番当たる可能性が高いと思っている。
*4:あると言えばある。ただそれは、TELの様に浮き沈みのある業界ではなく、安定した業界に多く見られる。インフラ業界などでは観測する事もあるが、やはり上場企業で探すのは困難なレベル、だと思っていいと思われる。
*5:「大同信号を忘れてくれるな」と思うかもしれないが、信号三社の中で大同信号はほか2社に比べて規模が小さいのだ。規模的な理由かどうかは分からないが、別事業を起こす人員を割り当てれないというのも、一要因であると思われる。
*6:それぞれ日本信号はソフト面、京三製作所はハード面に信号機製作で培った知識で事業を起こしており、この2社の比較はいろんな面で調べがいがある
*7:高配当であれば人気を徐々に集めて株価上がるんじゃないの? という判断もあるが、配当金だけでは上がりにくいといくつかの銘柄で判断している。高配当銘柄は、配当金が重しになり、株価が上がりにくいと言った株式相場での定説もあるくらいだ。
*8:東京エレクトロン宮城では、主にプラズマエッチング装置の製造を行っており、今後の需要予測として増える製品の1つである。
*9:売上高10%越えの小話が1つある。「有価証券報告書のルールにおいて、10%を超えたら記載、ということはまあ影響あるんだろうなぁ」くらいの認識の人が多数であり、実際の肌感覚で"売上高10%とはこういう事だ"と理解している人は少ないんじゃないかと思う。たまたまだが前の会社では、売上高10%を占めている会社の営業マンが同じ営業所にいたことがある。売上高10%を俺は持っているんだぞという権力で、「全営業車に導入されているGPSの設置を拒否」「営業車の自宅への持ち帰り」「同営業所の従業員の基本給の昇給額を上乗せ」「気に入らない人間の左遷を容易にする」などをやってのけていた。元々パワハラ人間でやりたい放題していると聴いてはいたが、さすがに従業員の基本給の昇給額を上乗せは、すごすぎる。まあなんというか、売上高10%ってどのくらいすごいかというと、担当営業マンが「俺が何かを起こせば、会社に大損失を与える事だってできるんだぞ」という威力を持つ レベルですごいってことなんだ、、、
*10:また、1単元が5万円以下のため、弾数を多く持ちやすいのも利点だ
*11:余談だが、このサイトは真空チャンバの理解を非常に助けてくれた。さすがキーエンス。このサイトを見るとさらに「もしかして真空用バルブもあるし、真空用フランジ、真空用計器もあるのでは?」と想像することもできる。
*12:TEL向けではないが、この知識で目をつけていた「横田製作所(6248)」は上がってしまって買えなくなった…… 光通信もこっそり持ってるねらい目の会社だったのにお金がなかったんだ、、、